第11回 新・社会心理学コロキウム 2017年6月1日開催


東京大学社会心理学研究室では、2ヶ月に1回程度のペースで「新・社会心理学コロキウム」を開催しています。1人の話者にQ&Aを含めて1時間半お話しいただき、参加者との活発な議論を楽しむ集まりです。事前の登録などは一切不要で、自由にご参加いただけます。

 

平成29年度第1回目は、6月1日(木)午後4時から5時30分までの予定で、太田勝造先生(東京大学)をお招きし「裁判とADR判断のインパクト:要介護高齢者の事故の法的責任の社会的影響」という演題でお話しいただきます。どうぞ奮ってご参加ください。

 

  • 日時: 6月1日(木)午後4時~5時30分
    場所: 東京大学本郷キャンパス 法文2号館 教員談話室
       http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam01_01_02_j.html
    講師: 太田勝造(東京大学・教授)
    講演タイトル: 裁判とADR判断のインパクト:要介護高齢者の事故の法的責任の社会的影響
    講演概要:
     痴呆による要介護老人(91歳)の引き起こした鉄道事故に対する,遺族の損害賠償責任について,最高裁判所第三小法廷が2016年(平成28年)3月1日に判決を出した.結論としては遺族の賠償責任を否定し,鉄道会社からの約720万円の損害賠償請求を棄却した.この事件は社会の注目を集め,広く報道された.報道においては,たとえば「最高裁第三小法廷(岡部喜代子裁判長)は1日,介護する家族に賠償責任があるかは生活状況などを総合的に考慮して決めるべきだとする初めての判断を示した.そのうえで今回は、妻(93)と長男(65)は監督義務者にあたらず賠償責任はないと結論づけ,JR東海の敗訴が確定した.高齢化が進む中で介護や賠償のあり方に一定の影響を与えそうだ.・・・一方で,監督義務者に当たらなくても,日常生活での関わり方によっては,家族が・・・責任を負う場合もあると指摘.・・・」(朝日新聞2016年3月1日)のように,人々の介護行動などへの負の影響(「萎縮効果」)も指摘されている.
     本報告では,このような事件が人々の介護行動などに影響を与えるのか否か,与えるとしたらどのような影響をどの程度与えるのかについて,実験計画法によるフィールド実験の結果を紹介する.上記の事故紛争について言及しない「紛争事例摘示なしの対照条件」,上記最高裁の請求棄却判決と上記報道のような解説を示した上で質問する「元の請求棄却裁判例と解説条件」,弁護士会の設営する裁判外紛争解決センター(ADR:Alternative Dispute Resolution)での同様の結論として示した上で質問する「ADR責任否定事例と解説条件」,および上記の裁判例から改定して請求認容の裁判結果として示した上で質問する「請求認容裁判例条件」という要因操作と,インターネット調査の際のフィルタリングとしてほぼ同数の「介護経験有り」と「介護経験無し」を抽出して,それも要因として比較した.質問としては,同居の有無や自分で世話をするか他の人にしてもらうか,あるいは介護施設に入ってもらうかなど種々の介護形態について,自分の親が上記の痴呆状態だったとしたらという仮想状況での介護意欲を尋ねている.また,ベッドに縛り付ける等の極端な事故回避行動に対する非難可能性について尋ねている.さらに,上記の解説等によって事故の賠償責任に関して不安を感じるようになったかどうか,も尋ねている.最後に,政策的含意を求めて,保険制度の導入で不安の程度が改善されるかについても尋ねた.
     分析では伝統的な頻度論による帰無仮説有意性検定とベイズ推定(Bayesian Inference)の両方で検定を行った.無情報事前確率分布を採用したためか,両者の間に概ね一致は見られたが,ズレが生じた場合はベイズ推定の方を採用して解釈した.それによれば,「萎縮効果」は見られず,むしろ賠償責任否定による介護意欲の向上のほうが見られた.また,介護経験の有無による回答傾向の差も様々に見られた.

 

  • ◆当研究室HPのイベントページ
     http://www.utokyo-socpsy.com/events.html
  • ◆問い合わせ先
     東京大学大学院人文社会系研究科 社会心理学研究室
     E-mail: sphisho [at] L.u-tokyo.ac.jp